坐骨神経痛は、日常臨床で頻繁に遭遇する症状の一つです。
ところが、腰や臀部だけを施術していても、なかなか改善しない症例があります。画像上は腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などが確認されていても、画像所見と症状の程度が必ずしも一致するとは限りません。
私自身も、L3/4・L4/5椎間板ヘルニア、L4すべり症、腰部脊柱管狭窄症があり、腰痛と右坐骨神経痛を経験しています。長時間座った後には腰が伸びにくくなることもありました。こうした自分自身の経験も含め、坐骨神経痛について長年臨床で検討してきました。
そこで現在は、坐骨神経痛を単に「腰から出ている神経の問題」として見るのではなく、仙腸関節、仙骨、腰仙部、臀部、末梢神経、足関節まで含めて評価するようにしています。
強い刺激を繰り返せばよいわけではない
難治性の患者さんを診ていると、長期間にわたってマッサージや強い刺激を繰り返しているケースがあります。
患者さん自身も強刺激に慣れてしまい、「強くしてもらわないと効いた感じがしない」という状態になることがあります。
しかし、私が重視しているのは「刺激の強さ」よりも、どこに、どのような刺激を、どの程度持続させるかです。
そのため、強刺激をいったん減らし、低侵襲で持続的な刺激へ切り替えることがあります。特に仙腸関節、棘上靱帯、末梢神経まで含めて施術を設計することを重視しています。
昔からいう、
「及ばざるは過ぎたるより勝れり」
という考え方は、刺激療法にも当てはまるのではないかと思っています。
坐骨神経痛では仙腸関節を必ず確認する
私が坐骨神経痛で特に重要視しているのが仙腸関節です。
仙腸関節は大きく動かすための関節ではありません。強固な靱帯によって安定性が確保され、動きそのものは非常に小さい関節です。
そのため私は、仙腸関節では単純な「可動域」よりも、わずかな関節運動の精度や制御性を見ることが重要ではないかと考えています。
つまり、
「よく動けばよい」のではなく、「必要な範囲で正確に動くことが重要」
という考え方です。
関節の遊びが大きすぎても、小さすぎても、あるいは途中で引っかかっても問題になります。資料ではこれを不安定型、固着型、引っかかり型という考え方で整理しています。
したがって坐骨神経痛では、私は仙腸関節を単に「動く・動かない」で判断するのではなく、関節機構が適切に働いているかという視点で評価しています。
デルマトームも「絶対」ではない
下肢のしびれを見る際にはデルマトームが重要です。
ただし、デルマトームを教科書の図に完全に当てはめて考えるのも注意が必要です。
神経叢では神経線維が混在するため、実際の症状が教科書通りの境界線で現れるとは限りません。特にT1、L4、L5などについては慎重に判断する必要があります。
私はデルマトームを「答え」として使うのではなく、障害部位を推測するための地図の一つとして利用しています。
症状の分布だけで決めつけず、圧痛、皮膚や組織の状態、関節機能、動作による変化などを合わせて判断します。
坐骨神経痛は「まず仙骨から」
実際の施術では、私が優先して確認する場所があります。
①仙骨棘突起 → ②仙腸関節 → ③腰仙関節 → ④殿筋ライン
という順番です。
特に大切にしているのが、必ず腰掛けた状態で評価することです。
臥位だけで評価するのではなく、重力負荷がかかった状態で確認します。また、圧痛がないから対象外とは限りません。
さらに必要に応じて、梨状筋、大腿後面、腓骨頭周囲、足関節周囲などへ評価範囲を広げていきます。
坐骨神経の走行だけを追いかけるのではなく、仙骨から末梢まで一つの連続したシステムとして見ることがポイントです。
足首まで診る
腰や臀部を治療しても改善が鈍いとき、意外に見落とされやすいのが足関節です。
私は坐骨神経痛の患者さんでは足首の状態も確認します。
資料では末梢のポイントとして、
- 腓骨頭後下部
- 浅腓骨神経部
- 内果後下方
などを挙げています。
また、足関節を固定したときに症状が変化するかどうかも、一つの評価材料になります。
「坐骨神経痛なのだから腰を治療する」という発想だけではなく、腰―骨盤―臀部―下肢―足関節までを連続して診るわけです。
貼付刺激では「どこに貼るか」が重要
私は臨床でソマニクス®などの貼付刺激も利用しています。
ただし、「貼れば効く」という考えではありません。
私が最も重要だと考えているのは貼付位置の精度です。
圧痛点についても、「押して気持ちがいい場所」ではなく、爪先圧や転がし圧などを利用してミリ単位で反応の違いを探します。必要に応じてマーキングし、数ミリずらして反応を比較します。
また症状に明らかな左右差がある場合、最初から左右対称に刺激するのではなく、私は患側のみを刺激して変化を確認することがあります。
左右を同時に刺激すると、患者さん自身が感じる左右差の変化が分かりにくくなる場合があるためです。
施術前後でペインスケールや動作を比較しながら、刺激位置を修正していきます。
最初の目標は「夜に眠れること」
難治性坐骨神経痛では、最初から痛みをゼロにすることだけを目標にすると、患者さんも術者も焦ってしまいます。
私が最初に目標とするのは、
「夜間痛を軽減し、眠れるようにすること」
です。
資料でも、夜間痛の改善を第一に置き、自宅リハビリ、足関節固定、必要に応じた整形外科との併用を施術の要点としています。
坐骨神経症状は、一度強く興奮すると短期間では落ち着かない症例があります。
そのため、「1回で全部治す」という発想より、神経症状が落ち着いていく時間経過を見ながら、悪化要因を一つずつ減らすという考え方が現実的だと思っています。
施術だけでなく、自宅での管理が重要
難治性坐骨神経痛では、施術者が週に数回治療する時間よりも、患者さんが自宅で過ごしている時間の方が圧倒的に長くなります。
そのため私は、自宅リハビリを施術と同じくらい重要視しています。
足関節の固定、臀部への適切なセルフケア、冷えへの対応などを組み合わせ、患者さん自身にも症状を管理してもらいます。
今回の講演資料でも、最終的な考察として、坐骨神経痛では自宅リハビリが重要であり、改善を早めるために施術を組み合わせるという考え方を示しました。
そして、強い刺激を短時間加えるだけではなく、弱い刺激を持続させるという選択肢もあります。
私はソマニクス®による弱く持続する刺激について、組織への負担を抑えながら刺激を維持できる点に臨床上の利点があるのではないかと考えています。
まとめ
坐骨神経痛がなかなか改善しないとき、私は「刺激が足りないから、もっと強く治療する」とは考えません。
むしろ、
- 腰だけを診ていないか。
- 仙骨・仙腸関節を見落としていないか。
- 末梢神経や足関節まで評価しているか。
- 刺激するポイントは本当に正確か。
- 患者さんの自宅での過ごし方に問題はないか。
をもう一度見直します。
坐骨神経痛は、一つのポイント、一つの手技だけで説明できるほど単純ではありません。
だからこそ、「どこを強く刺激するか」から、「何が症状を長引かせているのかを評価し、必要最小限の刺激をどこに入れるか」へ発想を変えることが大切だと考えています。
私自身、まだ検討を続けている部分がありますが、今回のWebセミナーでは、仙腸関節、デルマトーム、馬尾神経、末梢神経、耳介、経絡などを組み合わせながら、私が実際の臨床でどのように坐骨神経痛を捉えているのかを紹介しました。
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