「そんなに食べていないのに体重が減らない」
減量をしている方から、このような話を聞くことがあります。
食事を減らし、運動もしているつもりなのに、なぜか体重が減らない。
そのため、
「基礎代謝が低いのではないか」
「年齢のせいではないか」
「もともと痩せにくい体質なのではないか」
と考える方も少なくありません。
もちろん、体重の変化には年齢、筋肉量、ホルモン、睡眠、薬剤、疾患など、さまざまな要因が関係します。
しかし、もう一つ考えておきたいのが、
「自分が認識している食事量・運動量」と「実際の食事量・運動量」のズレ
です。
NEJMに掲載された興味深い研究
1992年、医学雑誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に、
Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects
という研究が掲載されました。
日本語にすると、
「肥満者における自己申告と実際のカロリー摂取量・運動量の食い違い」
という意味です。
研究対象となったのは、肥満治療を希望した224人です。
その中には、「1日1,200 kcal未満しか食べていないのに体重が減らない」と訴える人たちがいました。
研究者は、このような「食事療法に抵抗性がある」と考えられていた対象者について、実際のエネルギー摂取量と消費量を詳しく調べました。
本当に「代謝が低い」のでしょうか?
食べていないのに痩せない場合、
「普通の人より基礎代謝が低いのではないか」
という可能性が考えられます。
そこで研究者たちは、安静時代謝量、食事誘発性熱産生、身体活動によるエネルギー消費などを調べました。
しかし、詳しく調査された「食事療法抵抗性」のグループでは、総エネルギー消費量や安静時代謝量は、体組成から予測される範囲とおおむね一致していました。
つまり、この研究では、
「代謝が異常に低いため、食べていないのに痩せない」
という説明を支持する結果は得られませんでした。
申告は1日1,028 kcal、実際には2,081 kcal
この研究で特に注目されたのが、自己申告と実際の摂取エネルギーとの差です。
対象者が申告した摂取エネルギーは平均
1,028 kcal/日
でした。
一方、研究で評価された実際のエネルギー摂取量は平均
2,081 kcal/日
でした。
その差は、1日約1,000 kcalにもなります。
研究では、実際のエネルギー摂取量を平均47%過少申告していたと報告されています。
さらに身体活動については、平均51%過大申告していました。
つまり、
食べた量は実際より少なく評価し、運動量は実際より多く評価する
という方向に認識のズレが生じていたのです。
「食べていないと言う人は嘘をついている」という研究ではありません
ここは非常に重要です。
この論文を、
「肥満の人は食べているのに嘘をついている」
という意味に解釈するのは適切ではありません。
食事の自己申告には、記憶の誤差、食品量の見積もりの難しさ、間食や飲料を記録し忘れることなど、さまざまな要因が影響します。
例えば、
・調理に使った油
・ドレッシングやマヨネーズ
・砂糖やミルクを入れた飲み物
・お菓子を数口食べた
・料理中の味見
・家族の残したものを少し食べた
・アルコールやジュース
・一人前の量そのものの見積もり違い
などは、本人に「たくさん食べた」という意識がなくてもエネルギー摂取量に加算されます。
一つ一つは少量でも、毎日の積み重ねによって大きな差になる可能性があります。
運動量も「感覚」と「実際」は違うことがあります
運動についても同じです。
「今日は仕事でよく動いた」
「30分歩いた」
「かなり汗をかいた」
という感覚と、実際のエネルギー消費量は必ずしも一致しません。
また、運動をしたことによって、
「今日は運動したから少しくらい食べても大丈夫」
と無意識に摂取量が増えることもあります。
摂取エネルギーと消費エネルギーの両方を「感覚」だけで正確に把握することは、思っている以上に難しいのです。
だからこそ「記録」が役に立ちます
「食事を減らしているのに体重が減らない」と感じた場合、すぐに「自分は痩せにくい体質だ」と結論づける必要はありません。
まず数日から1週間程度、
食べたものと飲んだものをできるだけ正確に記録する
だけでも、多くのことが見えてきます。
可能であれば、
・食事を写真に撮る
・食品の重量を量る
・間食も記録する
・飲み物も記録する
・調味料や油も意識する
・歩数や活動量を記録する
・毎日なるべく同じ条件で体重を測る
といった方法が役立ちます。
最近ではスマートフォンや活動量計なども利用できます。
重要なのは、自分を責めることではなく、
「感覚ではなく、一度客観的な数字で確認してみる」
ことです。
この研究だけで「肥満の原因」を説明することはできません
一方、この論文を紹介する際には注意も必要です。
1992年に発表された研究であり、特に詳しく調査された「食事療法抵抗性」のグループは10人でした。
したがって、
「肥満の人はみんな食事量を少なく申告している」
「痩せない原因はすべて食べ過ぎである」
と結論づけることはできません。
肥満や体重減少のしにくさには、遺伝的要因、加齢、筋肉量、睡眠、ホルモン、薬剤、疾患、生活環境など多くの要因が関係します。
また、減量を続けることでエネルギー消費量が変化し、最初と同じペースでは体重が減らなくなることもあります。
体重が減らない原因を単純に一つだけに求めるべきではありません。
「食べていないのに痩せない」ときこそ、客観的に確認する
この研究から現在でも学べる重要な点は、
人間の自己認識と実際の行動には、思った以上のズレが生じることがある
ということです。
これは肥満の人に限った話ではありません。
私たちは食事、運動、睡眠などについて、自分では正確に把握しているつもりでも、実際とは違っていることがあります。
「そんなに食べていないのに痩せない」
というときには、
「意志が弱い」
「体質だから仕方がない」
と決めつけるのではなく、
まず食事量と活動量を客観的に記録して確認してみる。
そこから原因を一つずつ考えていくことが大切だと思います。
参考文献
Lichtman SW, Pisarska K, Berman ER, et al. Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects. N Engl J Med. 1992;327(27):1893-1898. doi:10.1056/NEJM199212313272701.
Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects – PubMed
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個々の方の診断や治療を目的とするものではありません。体重の急激な増減や、食事・運動では説明できない体重変化がある場合には、医療機関にご相談ください。

