鍼灸の名著に、こういう言葉があります。
「一陰三色五病は神様の法則です。」
出典は『鍼灸真髄』(代田文誌著)。明治・大正・昭和を生きた名鍼灸師・澤田健先生の臨床と言葉を、弟子の代田文誌先生が記録した名著です。
私は長年この言葉を臨床の傍らに置いてきました。今回はその意味を、できるだけ平易にお伝えしたいと思います。
現代の超高齢化社会では、高齢者は全員が腎虚です。経方では腎は第二発電所と言われ、胃は第一発電所と言われています。
それをどうするのかが腕の見せ所で、やはり膈へのアプローチが根本のようです。
『鍼灸真髄』とは
【書籍紹介】今なお読み継がれる不朽の名著!「鍼灸真髄」 | 医道の日本社(公式サイト)
澤田健先生(1877〜1938年)は、独自の鍼灸理論を打ち立てた臨床家です。
弟子の代田文誌先生がその教えと臨床を書き記したのが『鍼灸真髄』です。現代の鍼灸師にとっても欠かせない名著の一つとされています。
本書の言葉を引用しながら、「一陰三色五病」を解説します。
一陰—万病の根は腎にある
澤田先生はこう言われました。
「体のうちでは腎が根本で、腎から万病が出る、それで腎が一陰。」
東洋医学における「腎」は、単なる臓器ではありません。生命エネルギーの貯蔵庫であり、成長・老化・生殖・骨・水分代謝すべての根本とされます。
つまり、どんな病気も最終的には腎の衰えに行き着く。それが「一陰」という概念です。
腰の弱り、膝の痛み、耳鳴り、頻尿、疲れやすさ——。これらが重なってくる方は、腎の力が落ちてきているサインと考えます。
三色—病は膈から入り、肝・脾・腎へと伝わる
「三色とは肝脾腎の三色。」
これは肌の色のことではありません。肝・脾・腎という三臓のことです。
澤田先生は病の経路をこのように示されました。
「病は総て膈より入り、肝脾腎と伝えてゆく。膈は天地の境で、膈より期門に入り、期門より肝に入り、肝より章門に入り、章門より脾に入り、脾より京門に入り、京門より腎に入る。」
膈(横隔膜)を天地の境とし、そこから肝→脾→腎へと病が伝わっていく。この順序が崩れると、治療の見当がつかなくなります。
逆に言えば、下(腎)の方から治してゆけば、上の方など治さずとも片づいてゆく。これが澤田先生の治療の根本方針です。
五病—腎から中脘へ、中脘から五臓へ
「五病は五臓の病ということ。一陰の故障が中脘へ出て、中脘から五臓の命に出る。」
腎(一陰)の衰えは、まず中脘(ちゅうかん)というお腹のツボに出ます。中脘は三焦全体を統括する要のツボです。そこからさらに五臓全体へと影響が広がっていきます。
だから澤田先生は「先づ陽池(ようち)と中脘の二穴を抜く要がある」と述べられています。病の出口を先に開けてやる、という発想です。
ここで重要な注意があります。中脘に灸をすえたあと、脊中(せきちゅう)に灸をすえてはいけません。「内外相搏って病のゆき場がなくて、体が苦しむ」と先生は明言されています。治療の順序を間違えると、患者さんを苦しめることになります。
三脘と三焦——八十一難経の起源
澤田先生はさらに、こう続けられます。
「上中下の三脘は三焦にひびく。上脘は上焦に、下脘は下焦に、中脘は中焦にひびく。また中脘は上中下三焦の全体をすべる。」
上中下の三脘が三焦にひびき、三三が九となる。この九が二乗されて九九・八十一となる。それが八十一難経の起りだと先生は言われました。
難経が八十一難から成る理由が、ここに隠されています。鍼灸の名著はただの治療マニュアルではなく、宇宙の法則を数理で表したものだと私は思います。
大医は太極を治す
澤田先生の言葉の中で、私がもっとも心に刻んでいる一節があります。
「大医は太極を治し、小医は小極を治す。大医は体を癒し、小医は病を治す。」
病名を治すのではなく、体そのものを整える。これが本来の治療だと思います。
「凡て病というものは血液の循環が悪いのがもとで起る。この滞りを取りさえすれば病気など問題にせずとも治るのです。」
この言葉は、私の45年の臨床経験とまったく一致します。膝が痛い、肩が凝る、眠れない——それぞれ別々の病気に見えますが、根を辿ると一つのところに行き着くことが多いです。
腎を根本に据えて体全体を診る。これが「一陰三色五病」の本質だと考えています。
あきらめないでください
整形外科や内科を転々とされても原因がわからない、薬を飲み続けても変化がない——そういった方が来院されます。
病名がついていても、根本から診直すと改善できることがあります。
「病気というものは一つ処から起るものではなく、皆つながっている。」
澤田先生のこの言葉が、私の臨床の出発点です。
あきらめる前に、一度ご相談ください。
注意
※本記事で使用している「腎」「肝」「脾」「心」「肺」は、東洋医学における概念です。現代医学の臓器名(腎臓・肝臓など)とは別のものです。
東洋医学の五臓は、臓器単体ではなく、体全体の機能・気血の流れ・精神活動までを含む広い概念として捉えてください。

