45年の臨床経験|観察から原因を見極め結果に導く

膝に大量の水が溜まった60代の患者さん|2回の鍼施術で腫れがほぼ消失した

今回は、稲刈り作業中に膝を捻り、関節に大量の水が溜まってしまった60代の患者さんをご紹介します。

この患者さんが膝を痛めるのは、今回で2回目です。

長雨の影響で田んぼがドロドロにぬかるんでおり、その中で稲刈り作業をしていた際に膝を捻ってしまったそうです。

来院されたときには、膝がパンパンに腫れていました。

膝には大量の関節液が溜まっていました

膝を診察すると、関節内に相当量の水(関節液)が溜まっていると考えられる状態でした。

半月板や側副靱帯などの損傷を確認するための徒手検査も行いました。

私の臨床経験からすると、仮に関節穿刺で水を抜いた場合、50〜70mL程度あるのではないかと思われるほどの腫れでした。

もちろん、実際に関節穿刺で測定したわけではありませんので、あくまで推定です。

外傷後にこれほど膝が腫れている場合、半月板や靱帯の損傷、骨折なども考慮する必要があります。

当然ですが関節への徒手検査は行ってます。

本来は、早期に整形外科で画像検査を含めた評価を受けていただきたい状態です。

しかし、患者さんは前回も膝を痛めた際に、整形外科を受診せず当院で施術を受け、改善した経験がありました。

今回も、

「何とかここで治したい」

と強く希望されました。

1週間、毎日施術しても腫れが引かない

患者さんの希望もあり、まず通常の施術を行いながら経過を確認しました。

ところが、1週間、毎日施術を続けても、膝の腫れにはほとんど変化がありませんでした。

これではいけません。

同じ施術を続けても改善は難しいと考え、施術方法を見直すことにしました。

そこで提案したのが、鍼施術です。

患者さんは鍼に積極的ではありませんでしたが、私は、

「鍼を受けられないのであれば、整形外科で診てもらってください」

とお伝えしました。

すると、

「それなら鍼をやってみます」

と決断されました。

膝関節炎の特効穴と特殊電流を組み合わせた15分の施術

今回の患者さんは、通院できる時間や費用面にも制約がありました。

そのため、全身への鍼施術ではなく、膝周囲への局所刺鍼を中心とした方法を選択しました。

私が膝関節炎の施術で用いる特効穴も取り入れました。

主に使用したのは、次のようなポイントです。

  • 中膝眼:膝のお皿の下にあるポイント
  • 上鶴頂:膝のお皿の上方、大腿四頭筋に関係するポイント
  • 同側の肘のポイント:膝と同じ側の肘にある、私が臨床で利用しているポイント

これらは、通常の施術で十分な変化が得られないときに検討する、私にとっての「プラス一手」です。

さらに、特殊電流を併用しました。

施術時間は約15分です。

鍼施術では、使用するポイントだけでなく、患者さんの状態や刺激量、安全性も考慮しています。

特に膝周囲は、感染予防に十分な注意が必要な部位です。

1回目の鍼施術後、膝の腫れが大きく変化

鍼施術を取り入れた後、膝の状態に大きな変化が見られました。

それまでパンパンに腫れていた膝が、見た目には約90%ほど腫れが引いたように感じられる状態になったのです。

患者さんも驚かれて、

「あの水は、いったいどこへ行ったの?」

と話されました。

私自身も、これほど大きな変化が見られたことは印象に残っています。

その後、2回目の鍼施術を行い、膝の腫れは見た目にはほぼ消失しました。

ただし、超音波検査などで関節液量を測定したわけではありませんので、関節液が実際に何%減少したのかは分かりません。

また、この変化が鍼や特殊電流によるものなのか、自然経過なども関係していたのかについては、この症例だけでは判断できません。

それでも、1週間の通常施術ではほとんど変化がなかった膝に、施術方法を変更した後、大きな変化が見られたことは興味深い経験でした。

水が引いても膝関節炎が治ったわけではありません

この患者さんには、以前から膝関節炎があります。

今回、関節水腫が大きく改善したからといって、もともとの膝関節炎まで治ったわけではありません。

炎症が続いていれば、再び関節液が溜まる可能性もあります。

また、今回の外傷による関節内の損傷が残っていないかについても注意が必要です。

患者さんには、状態によっては今後10回程度の施術が必要になる可能性があることを説明しました。

もちろん、10回施術すれば必ず治るという意味ではありません。

経過を確認しながら施術の必要性を判断することが大切です。

膝関節炎に対する鍼施術は医学的にどう評価されているのでしょうか

膝関節炎、とくに変形性膝関節症に対する鍼施術については、これまで多くの研究が行われています。

2024年に医学誌『BMJ Evidence-Based Medicine』に掲載されたシステマティックレビューでは、80件のランダム化比較試験、合計9,933人の患者さんを対象とした研究が分析されました。

その結果、鍼施術は膝の痛みや身体機能の改善に役立つ可能性が示されました。

また、研究全体を統計的に比較した探索的な分析では、電気鍼が通常の鍼より疼痛軽減に有利である可能性も示されています。

ただし、研究結果の確実性は非常に低いと評価されており、慎重に解釈する必要があります。

さらに、米国リウマチ学会と関節炎財団のガイドラインでも、変形性膝関節症に対する鍼施術は条件付きで推奨されています。

一方、これらの研究は主として痛みや身体機能を評価したものです。

鍼施術によって大量の関節液が短期間で減少することや、関節液の再貯留を防げることが十分に証明されているわけではありません。

また、今回使用した特殊電流が、研究で用いられている電気鍼と同じ作用を持つかどうかも、別に検討する必要があります。

私の臨床経験では、再び水が溜まりにくいと感じる症例もあります

私はこれまで、膝関節炎による関節水腫の患者さんに対して、鍼施術や特殊電流を組み合わせた施術を行ってきました。

その中には、関節水腫が軽減し、その後も比較的落ち着いた状態が続く症例があります。

関節穿刺を繰り返していた患者さんでも、施術後の経過が良好だった経験があります。

ただし、これは私自身の臨床経験に基づく印象です。

鍼施術が関節穿刺より優れていると結論づけるには、同じ条件で比較した研究が必要です。

関節穿刺には、溜まった関節液を除去するだけでなく、関節液を調べて病気の原因を診断するという重要な役割があります。

私は、鍼施術と整形外科での検査や治療は、対立するものではないと考えています。

今回の臨床から

長年患者さんを診ていると、同じような膝の症状でも、施術に対する反応は一人ひとり違います。

今回の患者さんは、通常の施術を1週間続けても、関節水腫にほとんど変化がありませんでした。

ところが、膝関節炎の特効穴と特殊電流を組み合わせた鍼施術に変更した後、大きな変化が見られました。

今回の経験で改めて感じたのは、同じ施術を漫然と続けるのではなく、反応が乏しければ方針を見直すことの大切さです。

ただし、膝に水が溜まったときに、まず考えなければならないのは、その原因です。

外傷後の著しい腫れや、熱感・発赤・発熱を伴う腫れでは、骨折や靱帯損傷、感染性関節炎なども考慮する必要があります。

こうした場合は、鍼施術を優先するのではなく、速やかに医療機関で評価を受けることが重要です。

水が引いたことと、膝の中の問題が解決したことは、必ずしも同じではありません。

今回の症例も、今後の経過を慎重に確認していきたいと思います。


参考文献

  1. Clinical effect and contributing factors of acupuncture for knee osteoarthritis: a systematic review and pairwise and exploratory network meta-analysis. BMJ Evidence-Based Medicine. 2024;29:374–384.
    https://doi.org/10.1136/bmjebm-2023-112626
  2. Kolasinski SL, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis & Rheumatology. 2020;72:220–233.
    https://doi.org/10.1002/art.41142

※本記事は当院で経験した一症例を紹介するものであり、施術効果を保証するものではありません。

  • -
    コピー

この記事を書いた人

アバター画像

村坂 克之

小又接骨院・鍼灸院の院長です。鍼師、灸師、柔道整復師の国家資格にて治療を行っています。屋号の小又(こまた)は、先祖の小谷屋亦治郎(亦=又)に由来します。PC文字入力は親指シフト(orz配列)ユーザー。
詳しくは院長略歴をご覧下さい。