45年の臨床実績 結果を出す手技治療

鍼を刺さなくても効く!接触鍼が がん患者の倦怠感に有効と世界初の研究で証明

これまで当院でも、がん患者さんの施術を何例か行ってきました。

皆さんに「楽になった」「だるさが減った」と言っていただけることもありましたが、それはあくまで私一人の施術者による結果に過ぎませんでした。「気のせいではないか」「偶然ではないか」——そういった疑問を完全に払拭することは、正直できませんでした。

鍼治療には、薬のような「二重盲検法」が使えないという宿命があります。錠剤なら本物と偽物を見分けずに飲めますが、鍼は「刺す・刺さない」を患者さんに隠すことができないからです。だからこそ、鍼灸の臨床研究は長年ジレンマを抱えてきました。

今回の広島大学の研究は、「接触鍼あり」と「接触鍼なし(プラセボ)」という巧みな比較設計でそのジレンマを乗り越え、121名という規模でがん関連疲労への有効性を証明しました。鍼灸師として、これは本当に画期的なデータだと感じています。

休んでも取れない「がん関連疲労」とは

がんの治療中、「だるくて何もできない」「どれだけ休んでも疲れが取れない」という状態が続くことがあります。

これは「がん関連疲労(Cancer-related fatigue)」と呼ばれ、がん患者の多くが経験する非常につらい症状です。

痛みとは違う、身体の奥底からくる消耗感や意欲の低下で、普通の疲労とは根本的に異なります。一番の特徴は、睡眠を取っても、横になって休んでも、回復しないことです。

原因は主に、化学療法・放射線治療などのがん治療そのものと、がんによって引き起こされる慢性的な炎症反応にあります。

「気合いで乗り越えれば良い」という話ではなく、身体の内側で起きている生理的な変化が根本にあるのです。

日常生活に支障をきたすほどの強いだるさ、やる気の低下、身体の消耗感——これはがん患者さんとご家族にとって、痛みと並ぶ深刻な問題です。

広島大学が世界初の臨床研究成果を発表

2026年3月、広島大学病院漢方診療センターの小川恵子教授らの研究グループが、全国5施設の緩和ケア科と共同で行った臨床研究において、大変注目すべき成果を発表しました。

【研究成果】がん患者が抱える倦怠感「がん関連疲労」に対し、 刺さない鍼治療「接触鍼法」が有効であることがわかりました。 | 広島大学

Effect of contact needle technique on cancer-related fatigue in palliative care patients: a randomized controlled trial | Supportive Care in Cancer | Springer Nature Link

「接触鍼法(K-style CNT)」と呼ばれる刺さない鍼治療が、このがん関連疲労に有効であることが、世界で初めて科学的に確認されたのです。

この研究成果は、緩和ケア分野における国際的な権威ある学術誌「Supportive Care in Cancer」(2026年2月19日号)に掲載されました。大学病院の漢方・鍼灸の臨床研究が国際誌に掲載されるというのは、鍼灸師として非常に嬉しいことです。

「刺さない鍼」接触鍼法とはどんな治療か

「接触鍼法」とは、鍼を皮膚に刺さず、肌の表面から経穴(ツボ)を軽く接触させて刺激するだけの治療です。通常の鍼治療とは異なり、皮膚への刺入がないため、出血もなく、痛みも基本的にありません。

刺激する代表的なツボは主に以下の3つを中心とします。

  • 天枢(てんすう)……へそから指3本分外側に位置するツボ。腸の働きを整える代表的なツボです。
  • 中脘(ちゅうかん)……胸骨の下端とへその中間に位置するツボ。胃腸の機能を高めます。
  • 関元(かんげん)……へそから指4本分下に位置するツボ。全身の気を補い、体力の回復を助けます。

これらに加えて、患者さんそれぞれの状態に応じて他のツボを組み合わせ、数か所を丁寧に刺激します。

肌に優しく、高齢者や体力の低下した方にも安心して受けていただける施術です。

臨床試験の結果:疲労スコアと自律神経に明確な変化

研究では、がん患者121名を「接触鍼あり」の群と「プラセボ(鍼に触れるがほぼ刺激なし)」の群にランダムに分け、週1回・4週間にわたって治療を行いました。

4週間後の評価では、接触鍼を受けたグループで、倦怠感に関する自覚症状のスコア(STAS-J)に統計的に有意な改善が認められました。

単なる「気のせい」や「プラセボ効果」ではなく、科学的な比較試験において接触鍼の効果が証明されたことは、非常に大きな意義があります。

さらに注目すべき点として、唾液アミラーゼ活性の変化も計測されています。唾液アミラーゼは交感神経系の活性化とストレス反応の生理学的なマーカーです。

接触鍼が、患者さんの「つらさ」の生理的な側面と心理的な側面の両方に働きかけている可能性が示唆されました。

これは鍼灸が「気持ちの問題」ではなく、身体の神経系に実際に作用していることを裏付ける結果だと思います。

当院でもできます——「鍼が怖い」方にこそ

当院でも、接触鍼に近いアプローチを日常的に行っています。

鍼灸というと「刺すもの」というイメージが強く、「痛そう」「怖い」と敬遠される方が少なくありません。

しかし接触鍼法は刺さないため、鍼が初めての方や、体力が低下している方、高齢の方でも安心して受けていただけます。

がん治療中の倦怠感でお悩みの方、あるいはご家族に治療中の方がいらっしゃる場合は、遠慮なくご相談ください。

鍼灸は抗がん治療に取って代わるものではありませんが、治療と並行して行うことで、QOL(生活の質)の改善に貢献できる可能性があります。

今回の研究が、その一つの確かな根拠になったと感じています。

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村坂 克之

小又接骨院・鍼灸院の院長です。鍼師、灸師、柔道整復師の国家資格にて治療を行っています。屋号の小又(こまた)は、先祖の小谷屋亦治郎(亦=又)に由来します。PC文字入力は親指シフト(orz配列)ユーザー。
詳しくは院長略歴をご覧下さい。