ある日、80代の女性がかかりつけ医に「貧血がある」と診断されました。
総合病院で詳しい検査の結果、胃の入り口(噴門部)にできた胃がん・ステージ4と診断されました。
医師からは「もう手の施しようがありません」と伝えられたそうです。
手術の話と、ご本人の言葉
もし食べ物が通らなくなった場合には、胃の入り口を広げる手術で対応できる可能性があるとの説明を受けました。
噴門部 広げる手術 – Google 検索
しかし、それも「延命のための処置」であり、病気そのものを治すものではありません。
「十分生きてきたから、もう無理はしたくないの」そう穏やかに話されたその方の言葉には、覚悟と静かな強さがありました。
ご家族の願いと、私たちの思い
ご家族は、「少しでも元気に過ごせる時間が延びるなら、やってみたい」と相談に来られました。
そこで週に2回、体の力を引き出す治療を始めました。
月に一度、病院で診察を受けるたびに担当医は驚かれたそうです。「どうしてこんなにご飯が食べられるんだろう?」と。
おばあちゃんにしたら、してやったりだったかも知れません。
6ヵ月間の奇跡のような時間
治療を始めてから半年、その方は毎日しっかりとご飯を食べて、家族と穏やかに過ごされました。
「おいしいね」と笑う顔が、ご家族にとって何よりの喜びだったといいます。そして6ヵ月後、いったん治療を終えました。
ところが、その1ヵ月後から体調が急に悪化し、さらに2ヵ月後に静かに旅立たれました。
「最後まで食べられた」ことの意味
ご家族は、「最期まで食べられたことが何よりうれしかった」と涙ながらに話されました。その言葉に、私も胸が熱くなりました。
たとえ命の長さを変えられなくても、“食べる”という人としての営みを支えることができたなら――
それはきっと、その方の人生に寄り添えた証だと思います。
おわりに
病気を治すことができなくても、「その人らしく生きる時間」を支えることはできます。
ご飯を食べ、家族と笑い、穏やかに過ごす。その時間こそが、生きる力であり、治療の意味だと感じました。

