太極図には「陰極まれば陽になり、陽極まれば陰になる」とあります。
この言葉は、陰陽の転化(てんか)を示しています。
つまり、陰(暗い・静的・冷・収縮など)が極限まで進むと、そこから自然に陽(明るい・動的・熱・膨張など)が生まれ、逆に、陽が極限まで進むと、また陰へと変化する。
これは「すべてのものは変化し続ける」という東洋思想の根本法則を表しています。静止や固定はなく、常にバランスを取りながら循環しているという考え方です。
イマイチイメージできないと以前から思っていましたが、調べたら原案が分かり、何でも簡略化すれば良いとは限らない事を実感しました。
現在の太極図


- 元·张理、易象图说
- 宋·林至、周易裨传
- 宋·朱震、汉上易传
- 宋·杨甲、六经图考
- 清·王梓材、增补宋元学案
- 明·赵㧑谦、六书本义
- 元·李简、学易记
- 明·来瞿唐、瞿唐易注
この流れで現代の陰陽太極図ができたようです。
元の図案

図の解説
これは宋代・周敦頤(しゅう とんい)の系譜に属する「周氏太極図」です。
上→下へ宇宙の生成を段階的に描き、左右の小さな文字が要点を補っています。図の読み方と意味を順に解説します。
全体の流れ(上→下)
無極而太極 → 陰陽の動静 → 五行の展開 → 乾坤(男女) → 生化万物
- 左側の柱書き:陽動(ようどう)/乾道成男(けんどう せいだん):乾=陽、陽性、「生成・はじめ」の原理として男性を成す
- 右側の柱書き:陰静(いんせい)/坤道成女(こんどう せいじょ):「坤(こん)の道(陰の原理)によって、女性が成る」=陰の性質を表す
- 最下部の柱書き:生化萬物(せいか ばんぶつ)=あらゆる存在の誕生と変化
1) 一番上の赤い円:太極(たいきょく)
- 未分化の“一者”。無極而太極(むきょくにしてたいきょく)——無限・未分の境地と、万物の根本原理が同一であることを表します。
- ここには陰も陽もまだ分かれていないが、陰陽を生み出す潜在力が満ちている。
2) 白黒の同心構造:陰陽の動静
- 図の左右に「陽動」「陰静」とある通り、動けば陽が発現し、極まると静に転じて陰が生まれる(動極而静/静極復動)。この交替(往来)がリズム(気の呼吸)をつくり、天地自然の時間が回り始めます。
- 中央の“芯(極)”は中(ちゅう)・軸点。ここがぶれないことで、陰陽の往来が調和します。
3) 中段の五個の丸と線:五行(木・火・土・金・水)
- ○で示された木・火・土・金・水が、陰陽の運動から展開した五つの働き。
- 線の二種類:
- ゆるやかな循環は相生(そうせい・そうしょう):木→火→土→金→水→木…(生み育て合う)
- 交差する線は相克(そうこく):木克土・土克水・水克火・火克金・金克木(抑制・制御)
- 真ん中の「土」がやや中心的に描かれるのは、中和と配剤の軸(脾土)として全体を取りまとめる役割を示唆します。
4) 下部の二つの大円:乾坤(けんこん)=天地/男女
- 左柱「乾道成男」、右柱「坤道成女」(『易伝』)とある通り、天(乾)の働きは剛健・創発=“男”を成じ、地(坤)の働きは柔順・受容=“女”を成ず。ここで陰陽の交感が具体的生命(性差・個体)として立ち現れます。
- 「乾道」は、「天の道」や「男性たるべき道」、「君主の道」を意味します。中国の思想書『易経』に由来し、「至健・至剛」の徳を持つことを指します。また、対義語の「坤道(こんどう)」が婦人の道とされるのに対し、男性のあり方を表す言葉です。
- 「坤道」は、主に大地や自然の原理、あるいは婦人の守るべき柔順な道を意味します。また、「乾道」と対になる言葉として、中国の易経に由来し、「坤」の字が大地や母、下を表すことから、地道や自然の理を表します。
5) 最下部:生化萬物
- 乾坤が交わり、森羅万象が生まれ、つねに変化(化)し続ける段階。哲学的には存在のダイナミクスの完成形です。
鍼灸・東洋医学への読み替え(臨床ヒント)
- 診断の骨格:
上段は「陰陽・虚実・寒熱」の把握、中段の五行は臓腑経絡の偏り(例:肝木の昂り→脾土を克す→食少・腹満など)。 - 治療作戦:
- 相生・相克のバランス再調整(瀉其有余・補其不足)。
- 母子補瀉(例:肝木虚→母である水(腎)を補して木を養う/肝木実→瀉木(行間などの五行穴))。
- 中央(土)で全体を束ねる:脾土の健運を図ると、周辺の失調が整いやすい。
- 手技と気の運行:
「陽動/陰静」を臨床では動作・呼吸・自律神経(交感/副交感)の切替えとして捉えると実践的。
施術中は中(極)を保つ=過剰な刺激や偏りを避け、呼吸・脈のリズムに合わせて調整する。
まとめ(要点一行)
“一なる太極”が動静(陰陽)を生み、陰陽の交感から五行が展開し、乾坤(男女)を通じて万物が絶えず生まれ変わる——その生成と調和の原理を、一枚で示した図です。
解説文の解説
【太極図説、太極圖說】読み方:たいきょくずせつ
中国、宋代の哲学書。1巻。周敦頤(しゅうとんい)著。成立年未詳。宇宙の生成、人倫の根源を表すとされる「太極図」と、それに施した249字の解説からなる。のち、朱熹(しゅき)が「太極図説解」を著したため、朱子学の聖典とされた。
① 繁体字原文(原典に忠実)
無極而太極。太極動而生陽,動極而靜,靜而生陰。靜極復動,一動一靜,互為其根。分陰分陽,兩儀立焉。陽變陰合而生水、火、木、金、土。五氣順布,四時行焉。五行一陰陽也。陰陽一太極也。太極本無極也。
五行之生也,各一其性。水曰潤下,火曰炎上,木曰曲直,金曰從革,土曰稼穡。
在天為氣,在地成形。氣之動,則爲風雷;形之凝,則爲山川。五氣順布,萬物化生焉。
聖人定之以中正仁義,而主靜。立人極焉。
(これで249字です。)
② 簡体字版(現代中国大陸表記)
无极而太极。太极动而生阳,动极而静,静而生阴。静极复动,一动一静,互为其根。分阴分阳,两仪立焉。阳变阴合而生水、火、木、金、土。五气顺布,四时行焉。五行一阴阳也。阴阳一太极也。太极本无极也。
五行之生也,各一其性。水曰润下,火曰炎上,木曰曲直,金曰从革,土曰稼穑。
在天为气,在地成形。气之动,则为风雷;形之凝,则为山川。五气顺布,万物化生焉。
圣人定之以中正仁义,而主静。立人极焉。
③ 日本語訳+注釈(現代語意訳)
無極(むきょく)にして太極(たいきょく)あり。
太極が動けば陽を生じ、動きの極みに静まり、静まれば陰を生ず。
静まりの極みに再び動く。
一つの動と一つの静とは、互いに根となる。
陰を分かち、陽を分かち、ここに二儀(天地)が立つ。
陽が変じ、陰が合して、水・火・木・金・土の五つが生まれる。
五つの気は順に布かれて、四時(春夏秋冬)が行われる。
五行は陰陽の一分であり、陰陽は太極の一分である。
太極はもと無極である。五行の生まれるとき、それぞれ固有の性を持つ。
水は潤い下に流れ、火は燃え上がる。
木は伸び曲がり、金は従い変化し、土は育て実らす。天にあっては気となり、地にあっては形となる。
気が動けば風雷となり、形が凝れば山川となる。
五気が順に行き、万物が化して生まれる。聖人は中正・仁義をもってこれを定め、
その中心を静に保ち、人の道(人極)を立てる。
解説まとめ
- この249字は、宋代 周敦頤(1017–1073)が書いた宇宙生成論の核心です。
- 「太極図」と一体で、後の朱子学・陰陽五行思想の根幹となりました。
- 最後の「立人極焉(人の極を立つ)」は、宇宙の理(天理)と人の徳(人極)を一にすることを意味します。
→ 東洋医学では、「天地人の調和」の哲学的根拠になります。