数ヶ月に一度、ぎっくり腰を起こして来院される中年の女性がいらっしゃいます。
これまで何度か同じような症状で来られていましたが、毎回、仙腸関節の動きを正す施術を行うと比較的早く楽になり、日常生活に戻ることができていました。
ところが、今回のぎっくり腰はいつもと様子が違っていました。
痛みがとても強く、少し動くだけでもつらそうで、表情にも余裕がありません。これまで効果のあった施術を、無理のない範囲で行いましたが、終わった後も大きな変化が見られませんでした。正直なところ、「これは少し手強いな」という印象でした。
翌日、改めて体の状態を確認しながら、これまでとは違う方法を試してみることにしました。
それが「子午(しご)治療」と呼ばれる、体全体のバランスや時間の流れを意識した鍼灸の考え方です。実は私自身、これまで経絡の流れを前面に出した治療を、積極的に使ってきたわけではありませんでした。
しかし今回は、「今の体には、別の角度からのアプローチが必要かもしれない」と感じ、思い切って取り入れてみました。
すると施術の途中から、患者さんの表情が明らかに変わってきました。「あれ、さっきより動けます」「痛みが軽くなっています」と、ご本人も驚かれていました。立ち上がりや歩く動作も、前日とは比べものにならないほど楽そうでした。
その後も順調に回復が進み、合計3回の施術で、日常生活に支障のない状態まで改善しました。今回のぎっくり腰は、無事に治ったと判断しています。
この経験を通して、「これまであまり意識していなかった考え方や治療法でも、体に合うタイミングでは大きな力を発揮することがある」ということを、改めて実感しました。
治療には、決まった正解が一つあるわけではありません。お一人おひとりの体の状態に合わせて、いろいろな引き出しを使い分けることが大切だと感じています。
今後も、より良い結果につながる方法を探し続けながら、安心して受けていただける治療を提供していきたいと思います。
子午(しご)治療とは?
子午(しご)治療とは、体の中を流れていると考えられている「気や血の流れ」と、時間の関係を大切にする治療法です。
東洋医学では、体には「経絡(けいらく)」と呼ばれる通り道があり、その働きは一日の中で時間ごとに変化すると考えられています。
たとえば、
- 朝と夜で体の調子が違う
- 痛みが出やすい時間帯がある
- 昼は動けるのに、夕方から急につらくなる
こうした変化は、実際に多くの方が経験していることだと思います。子午治療は、この「時間による体の変化」を治療に活かす方法です。
痛いところだけを治療しない理由
ぎっくり腰や肩こりというと、「痛い場所だけが悪い」と思われがちです。
しかし実際には、
- 体の別の場所の疲れ
- 内臓の疲労
- 自律神経の乱れ
- 睡眠不足やストレス
こうした要素が重なって、結果として腰や肩に痛みが出ていることが少なくありません。
子午治療では、今その時間帯に働きが弱くなっている体の流れを整えることで、結果的に痛みが出ている場所が楽になる、という考え方をします。
そのため、「腰が痛いのに、腰以外に鍼をする」ということも起こります。
なぜ「今まで効かなかった痛み」に効くことがあるのか
これまでに、
- マッサージを受けても変わらなかった
- 矯正をしてもその場だけだった
- 湿布や痛み止めが効きにくくなってきた
という経験がある方も多いと思います。
それは、「その方法が悪い」のではなく、その時の体の状態に合っていなかっただけかもしれません。
子午治療は、「今の体に、今必要な刺激は何か」を時間の視点から探します。
そのため、これまで変化が出なかった症状でも、急に体が反応し始めることがあります。
当院が子午治療を大切にしている理由
当院では、子午治療だけを行うわけではありません。体の状態に応じて、矯正や手技、鍼灸などを組み合わせます。
その中で子午治療は、
- 痛みが強いとき
- いつもの治療が効きにくいとき
- 体全体が疲れ切っているとき
に、体に負担をかけず、回復のきっかけを作る方法として、とても有効だと感じています。
治療は「力」ではなく、「合っているかどうか」が大切です。子午治療は、その見極めを助けてくれる考え方の一つだと考えています。

