今回ご紹介するのは、以前に五十肩を経験され、五十肩そのものは改善したものの、その後も肩関節周囲の痛みや不調が続いていた患者さんです。
さらに、肩とは反対側の腰にも痛みがありました。
長く続く肩の症状では、私は肩関節だけを診て終わりにはしません。頸椎、胸椎、肩甲骨周囲、骨盤なども含め、身体全体を確認します。
また今回は、患者さんが持参された検診結果にも、施術を考えるうえで気になる点がありました。
お薬手帳と検診結果まで確認する
当院では現在の症状だけでなく、既往歴、服用している薬、これまで受けた治療などを確認します。
お薬手帳や健康診断の結果をお持ちの場合は、それらも大切な情報になります。
今回の患者さんは、お薬手帳と検診結果を持参されていました。
検診結果を見ると、腎機能の目安の一つであるeGFRの低下を指摘されていました。
eGFRは、腎臓が血液をろ過する能力を推定するための指標です。ただし、一度の数値だけで腎臓病の状態を判断できるものではありません。年齢、経過、尿検査など他の情報も含めて評価する必要があります。
必要があれば、医療機関で継続して腎機能を確認していただくことも大切です。
肩だけでなく、上位頸椎と胸椎にも注目
身体を診察すると、上位頸椎の状態に気になる所見がありました。
さらに胸椎を確認すると、特に第3胸椎付近に、私が臨床上重要と考える所見がありました。
長年患者さんを診ていると、肩が痛いからといって、肩だけを施術していては十分ではないと感じる症例があります。
今回も私は、長年続いてきた肩の不調と、頸椎から上部胸椎にかけての状態との関連を考えました。
ただし、「第3胸椎のずれが長年の肩の不調を引き起こした」と医学的に証明できるわけではありません。
これは身体所見と、これまでの私の臨床経験をもとにした判断です。
反対側に出ていた腰痛
もう一つ興味深かったのが、肩とは反対側に腰痛があったことです。
私はこのような場合、肩と腰を最初から別々の問題と決めつけません。
脊椎や骨盤の動き、身体の左右差などを確認し、一方をかばうような身体の使い方がないかも診ていきます。
もちろん、肩の不調が反対側の腰痛を直接引き起こしたと断定することはできません。
しかし実際の臨床では、長期間痛みを抱え、身体をかばいながら生活している患者さんに、別の場所の不調が重なっていることは珍しくありません。
eGFRの低下と東洋医学の「腎」
今回、もう一つ考えたのが東洋医学の「腎」です。
東洋医学では「腎主骨(じんしゅこつ)」といい、伝統的に「腎」は骨と深く関係すると考えられてきました。また、「腰は腎の府」といわれるように、腰との関係も重視します。
今回の患者さんには肩関節周囲の不調と腰痛があり、検診ではeGFRの低下も指摘されていました。
こうした情報を見ると、私は現代医学的な身体所見だけでなく、東洋医学的な「腎」の状態についても考えます。
ただし、ここは非常に大切なところです。
現代医学でいう腎臓と、東洋医学でいう「腎」は同じ概念ではありません。
そのため、
「eGFRが低下したから肩や腰が痛くなった」
「腎機能が低下したため関節炎になった」
という意味ではありません。
eGFRの低下は現代医学的な検査所見として確認し、必要なら医療機関で評価していただく。一方、鍼灸治療を組み立てる際には、東洋医学独自の考え方から身体全体を診る。
私は両者を混同しないことが大切だと考えています。
鍼と脊椎・骨盤への施術
今回の問診、検診結果、身体所見などを総合して、鍼治療と、身体の状態に合わせたやさしい脊椎・骨盤矯正を行いました。
施術後には、肩や腰の症状、身体の動きに変化がみられました。
ただし、今回の状態はかなり以前から続いています。
そのため患者さんには、
「長年続いている状態ですので、一度ですべてを変えようとせず、何回か状態を確認しながら施術していきましょう」
と説明しました。
古い症状だから必ず何回も施術が必要という意味ではありません。必要な施術回数には個人差があります。
私は毎回の症状や身体所見の変化を確認しながら、次の施術を考えるようにしています。
患者さんからいただいた感想
「問診の際もお薬手帳や検診結果を持参して事細かに聞いていただけました。
治療は整体及び鍼灸の幅広い観点からのとても丁寧な施術でした。
鍼の刺される時の感触は殆ど痛みを感じなかったです。施術直後は怠さが残るものの、時間が経つにつれて身体が軽くなってきました。
とても満足いく治療を有難うございました。」
※患者さん個人の感想です。施術による効果を保証するものではありません。
五十肩が治った後の痛みを、すべて「五十肩の続き」と考えない
五十肩を経験した患者さんから、
「肩は動くようになったけれど、まだ痛い」
「五十肩は治ったと言われたのに、肩の違和感が残っている」
という相談を受けることがあります。
こうした場合、私は「以前に五十肩だったから、今回も肩だけの問題だろう」とは考えません。
現在の肩関節の状態を確認することはもちろん、必要に応じて頸椎、胸椎、肩甲骨周囲、骨盤、身体の左右差まで診ていきます。
さらに、お薬手帳や検診結果などに気になる情報があれば、それも無視しません。
今回の症例では、上位頸椎と第3胸椎付近の所見、反対側の腰痛、そして検診で指摘されていたeGFRの低下など、いくつもの情報がありました。
それらを一つの原因ですべて説明するのではなく、現代医学的な情報、身体所見、そして東洋医学的な考え方をそれぞれ区別しながら、患者さん全体を診ていくことが大切だと私は考えています。
長く続く症状ほど、「痛いところだけ」を追いかけない。
これは私が長年の臨床で大切にしてきたことの一つです。
※本記事は一症例についての臨床経験を紹介したものです。同じような症状でも原因や経過は異なり、同様の施術結果を保証するものではありません。

