ある女性の患者さんが、1年ほど前から週1回の鍼治療を受けておられます。
IBSが鍼で直ぐ回復したという報告がありますが、本来のつらい下痢タイプの過敏性腸症候群(IBS)では無いと思います。
体質を変えるのはなかなかの難事業です。1年(四季)は必要ではないでしょうか。
【患者さんの声】1年後、「体が丈夫になった」と感じるように
来院のきっかけは「関節の痛み」でした。お母さまが慢性関節リウマチを患っていたこともあり、「自分も同じ病気かもしれない」と不安に思われていたのです。
クリニックで詳しい検査を行った結果、リウマチではないことが分かり、まずは一安心。とはいえ、全身の関節が痛く、体調を崩しやすかったりという不調は続いていました。
そうした体調の波には、「体質」が関係していることもあります。患者さんの場合、お腹(腸)の調子も崩しやすく、体の中心である消化器の不調が全身に影響しているようでした。
漢方的には胃は第一発電所と考え、ここが調子悪いと体の全てが上手くいかず、治ってきません。
鍼治療を続ける中で、まず変化が出てきたのは肩こりでした。若いころからずっと悩んでいたそうですが、治療を続けるにつれ、少しずつ軽くなり、半年ほどでほとんど気にならなくなりました。
すると不思議なことに、腸の不調も自然と改善していったのです。お腹の張りや便通の不安定さも整ってきて、体全体が軽く感じられるようになったとのこと。
1年が経った今では、ストレスがあっても体調を崩しにくくなったと喜ばれています。「前よりも体が丈夫になった気がします」というお言葉に、私たちも嬉しくなりました。
当院では、ただその場の症状だけを見るのではなく、体全体のバランスを整えることを大切にしています。体の声に耳を傾ける治療を、これからも一人ひとりに合わせて行っていきます。
解説
過敏性腸症候群(IBS) – 03. 消化器系の病気 – MSDマニュアル家庭版
過敏性腸症候群(IBS)とは、消化器の異常がないにもかかわらず、腹痛や便通異常(下痢、便秘など)が慢性的に繰り返される病気です。主な原因は、ストレス、不安、抑うつなどの心理的要因や自律神経の乱れと考えられています。
タイプ | 主な症状 | 排便後の改善 | よくある便性 |
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下痢型 | 突然の腹痛と下痢 | あり | ゆるい or 水様便 |
便秘型 | 腹部膨満・硬便 | あり | コロコロした硬い便 |
混合型 | 便秘と下痢が交互 | あり | 日によって変化 |
分類不能型 | 特徴が不明確 | あり | 明確なパターンなし |
詳しくは専門医を受診してください。
変化を感じられないようなら、当院のアプローチも合わせると良いでしょう。
鍼がIBSに有効であると報告した論文
以下は、鍼治療が過敏性腸症候群(IBS)に効果があると報告された主な研究論文です。
鍼治療の有効性を示す主な研究
- ACTION試験(2025年)
- 中国の6病院で実施された多施設ランダム化比較試験。
- 下痢型IBS(IBS-D)の患者280名を対象に、6週間で15回の鍼治療または偽鍼治療を実施。
- 6週目の時点で、鍼治療群の57.9%が主要評価項目(腹痛の30%以上の改善および下痢日数の50%以上の減少)を達成し、偽鍼群の41.4%と比較して有意な改善が見られた(p=0.008)。
- 効果は18週間持続し、副作用は報告されなかった。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- Frontiers of Medicine(2024年)
- 難治性IBS患者170名を対象に、真の鍼治療と偽鍼治療を比較。
- 鍼治療群はIBS症状重症度スコア(IBS-SSS)の有意な改善を示し、生活の質(QOL)や不安症状の改善も報告された。
- 副作用は軽度で一過性のものであり、安全性が確認された。 (news-medical.net)
- LWW誌(2022年)
- 複数のランダム化比較試験(RCT)およびメタアナリシスを通じて、鍼治療がIBSの症状緩和に有効であることが示された。
- 鍼治療は胃腸運動の調整、内臓過敏性の抑制、脳腸相関の改善、免疫および腸内フローラの調整など、複数のメカニズムを通じて効果を発揮する可能性がある。 (jsge.or.jp, journals.lww.com)
- BMJ Open(2021年)
- 難治性IBS患者を対象に、鍼治療の有効性と安全性を評価するランダム化比較試験を実施。
- 鍼治療群は症状の有意な改善を示し、副作用も軽微であった。 (jstage.jst.go.jp)
これらの研究は、特に下痢型や難治性のIBS患者において、鍼治療が症状の改善に有効である可能性を示しています。ただし、研究デザインや対象集団、評価指標が異なるため、今後さらなる大規模で質の高い研究が求められます。