赤羽幸兵衛の皮内針療法(皮内針法)とは
赤羽幸兵衛(あかばね こうべえ、1895年 – 1983年)は、昭和期の日本を代表する鍼灸家のひとりであり、現代における皮内針療法の祖とも言える人物です。
彼の考案した「皮内鍼(皮内針)療法」は、極めて細く短い鍼を皮膚の浅層に留置する治療法です。
背景と開発の経緯
赤羽氏は、従来の刺入深度の深い鍼に対して、より穏やかで持続的な刺激が可能な方法を追求しました。
彼は慢性疾患、特に関節の痛み、神経痛、自律神経失調症などの患者に対して、持続的刺激による効果を研究する中で、皮膚の浅い層に刺入し、数時間から数日間留置する小型の鍼を開発しました。
これが皮内鍼療法の始まりです。
特徴と技術
1. 刺入方法と器具
赤羽式皮内鍼は以下の特徴があります。
- 長さ3~8mm程度の極めて短い鍼を使用
- 鍼体は平軸型や円型に曲げられ、テープや絆創膏で固定
- 刺入深度は真皮層から皮下浅層まで
- 一定期間(数時間〜2、3日)留置することで、継続的に刺激を与える
2. 理論的根拠
赤羽氏は、東洋医学の経絡理論に基づきながらも、独自の「知熱感度測定法」を使い「シーソー現象」という生理学的仮説を提唱しました。
シーソー現象とは:
- 痛みや異常な興奮を生じている神経経路に対し、反対側または関連部位に弱刺激を加えることで神経活動のバランスを取る作用。
- いわば「中枢神経における神経抑制」を引き出す仕組み。
この概念は現代の「ゲートコントロール理論」や「末梢神経の抑制機構」に通じるものがあります。
3. 臨床応用と効果
皮内針療法は、慢性的な肩こりや腰痛、自律神経の乱れ、神経痛、胃腸の不調、頭痛、眼精疲労など、さまざまな症状に対して効果があるとされています。
特に「持続的な軽刺激が有効な慢性疾患」に対する適応が高く、薬物治療との併用や、鍼刺激に敏感な患者への対応として用いられます。
臨床上の利点
◎長所
- 微弱刺激で副作用がほとんどない
- 鍼恐怖のある患者や小児・高齢者にも適応可能
- 長時間にわたって持続的刺激を行える
- 臨床で継続施術の手段としても有効
△短所・注意点
- 感染防止や衛生管理が重要(皮膚トラブルや炎症のリスク)
- 刺入部位のかゆみ・赤み
- 患者の体質や皮膚の状態によって効果に個人差
現代への影響
赤羽氏の皮内針の考えは、今日の円皮鍼やシール鍼、粒鍼(マグレインなど)として市販されています。
また、「長時間持続刺激による神経調整」という発想は、他の治療法とも共通し、現在の多くの代替療法の基礎ともなっています。
まとめ
赤羽幸兵衛の皮内針療法は、微細な刺激を皮膚に持続的に与えることで、全身の神経・内臓機能のバランスを整えるという革新的な治療法でした。
彼の理論と技術は今日の多くの手技療法やセルフケアグッズにも継承されており、臨床上の応用範囲も極めて広いものです。
このように、赤羽氏の業績は「日本発の皮膚レベルの医療技術の祖」として、今も多くの治療家に受け継がれています。